就活に詳しいアナリストが伝授 企業研究に役立つIR情報【2】趨勢(すうせい)分析

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就活に詳しいアナリストが伝授 企業研究に役立つIR情報【2】趨勢(すうせい)分析

20年以上にわたり証券アナリストとして活躍。大学で就活支援も行う、企業と就活の専門家が、「IR情報」を活用した企業研究のやり方を分かりやすく解説します。
(文/日本経済大学経営学部教授 兼 キャリアサポートセンター長、証券アナリスト  西村尚純 ※プロフィルはページ下部)

趨勢(すうせい)分析とは何か

 趨勢分析は、企業の過去の売上高や利益の傾向(トレンド)の変化を読み取ることです。企業の売上高の推移を見れば、ビジネスが順調に拡大しているか、そうでないかを確認することができます。あわせて利益の推移をチェックすることで、売上高に伴った収益をきちんと上げているかを見て取ることができます。なお、利益にも損益計算書(P/L)ベースでは売上総利益、営業利益、経常利益、当期純利益といろいろな段階がありますが、本稿では本業でどれだけ稼いでいるのかを示す営業利益を使用します。

 趨勢分析は売上高と営業利益の推移を見ることで、企業の成長性を確認するわけです。直近の決算期だけを見ても成長しているかどうかは判断できません。最低5期、できれば10期くらいの売上高・営業利益の推移をグラフにすると分かりやすいと思います。

 その結果として企業の売上高と営業利益の傾向がハッキリするので、業績が上向きトレンドにあるのか、横ばいなのか、下降トレンドにあるのかが分かります。またグラフにしなくても、売上高や営業利益の数値を見るだけでおおよその傾向を読み取ることができます。

 ちなみに、企業のウェブサイトには過去10年ほどの決算短信が開示されていることが多いので、売上高・営業利益を調べるのは簡単です。また『日経会社情報』(日本経済新聞出版社刊)などの本の最新版を見れば、過去5~6期の売上高・営業利益を一目で確認することが可能です。

 趨勢分析は同業の企業と比較してみることも重要です。例えば同じ業界に属するA社とB社で売上高や営業利益のトレンドが異なっている場合は、注意が必要です。仮にA社の売上高が上昇トレンドにある一方で、B社の売上高が横ばい、もしくは下降トレンドにある場合は、業界全体が何らかの外部からの影響を受けたもの(例えば為替レートの変化や原材料の価格高騰など)ではなく、個別の理由によるものと考えられます。

●実際に趨勢分析を行ってみましょう

 ここでは小売業界に属する三越伊勢丹ホールディングスとMonotaRo(モノタロウ)の趨勢分析を行ってみましょう。三越伊勢丹ホールディングスはみなさんご存じのように傘下に百貨店大手の三越と伊勢丹を有する持ち株会社です。一方、MonotaRoは工具・工場用通販大手企業で『日経会社情報(2016年春号)』によると「ネット販売主力。低価格品と品ぞろえに強み」とあります。どちらも東京証券取引所第1部上場企業です。

 画面の上にある画像は、この2社の5期の売上高・営業利益をまとめたものです。

 この2社の売上高・営業利益の趨勢分析を行ってみると次のことが明らかになります。(1)売上高と営業利益の水準は三越伊勢丹ホールディングスがMonotaRoよりも高く、業績面では安定感がある、(2)売上高・営業利益はMonotaRoの上昇トレンドが続いており、企業の成長力という点ではMonotaRoの方が評価できる――ということです。

 さあ、みなさんはどちらの企業を選択しますか? 企業規模が大きく安定性を重視して会社を選びますか。あるいは企業規模がそれほど大きくなくても成長性にポイントを置いて会社を選びますか?

 このようなケースは就活が始まれば、よく直面する悩みです。そう簡単に結論の出ないきわめて難しい選択になるでしょう。相当悩むことになりますが、自分自身の仕事に関する考え方、職務に対する適性、社風に合うか、経営者の考えや企業理念に共感できるか、10年後の自分の働く姿、などを勘案して悔いのない判断をしてほしいと思います。



【プロフィル】
西村尚純(にしむら・なおずみ)
新潟大学経済学部卒業、国際大学大学院国際経営学研究科修了(MBA)。富士通総研、SMBC日興証券等で証券アナリスト、コンサルティング業務に従事。アジア企業、国内企業の調査経験は20年を超える。ロンドン、シンガポールで5年近くの海外駐在経験があり、シンガポールでは東南アジア企業担当のチーフアナリストを務める。一方、国内企業のアナリストとしては食品・小売・外食セクターを中心にフォロー。その間、テレビ東京や日経CNBC、ラジオNIKKEIなどの経済番組に出演するとともに、全国紙をはじめとする多くのメディアにレポートやコラム、コメントが掲載される。現在も専門分野の食品・小売・外食セクターの調査を続けており、全国紙にコメントを発表している。日本経済大学経営学部教授、キャリアサポートセンター長。日本証券アナリスト協会検定会員。

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