イギリス流のストレスの少ない働き方 ~ロンドン五輪に携わった建築家・山嵜一也さんに聞く~【3】

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イギリス流のストレスの少ない働き方 ~ロンドン五輪に携わった建築家・山嵜一也さんに聞く~【3】

 日本国内の大学院を修了し(建築を専攻)、10カ月間日本の設計事務所で働いた後、2001年に渡英した建築家の山嵜一也さん。以降12年間、イギリスの建築事務所で働き、12年に開催したロンドン五輪の競技場の設計などにも携わりました。イギリスでの生活や働き方、五輪へかかわった経験などをまとめた書籍『イギリス人の、割り切ってシンプルな働き方』(16年5月、KADOKAWA発行)も話題です。

 今回はインタビューを3回に分けて紹介する最終回。大学の講師として携わっている経験から日ごろ感じていることや、学生や若手社会人へのアドバイスを語ってくれました。

※山嵜一也さんのプロフィールは2ページ目
※第1回の記事はこちら
※第2回の記事はこちら

あえて空気を読まない

 ――社会全体がストレスを溜めないために、「自分がお客になったときに、成熟した態度を取ることが大切」なのですね(2回目の記事)。ほかに日本人が参考になりそうなイギリス流の考え方はありますか?

 空気を読まないという考え方はどうでしょうか。日本は人口の多くを日本人が占めているため、みんな似たような考え方になり、「空気」というプレッシャーが生まれるのは仕方がないかもしれません。

 日本で会議や打ち合わせをすると、どうしてもその場の空気にとらわれて、言いたい意見も言わずに終わることもありますが、それを改めて言いたい意見を言ってみて、反論があればきちんと説明すればいいし、「どういうことなの?」と言われたら分かりやすく伝えればいい。

 会議の後に仲間内だけでコソコソ不満を言っても仕方がありませんし、何ら解決に結びつきません。もし会議の場が言いづらい雰囲気であるならば、日頃からコンタクトを取り、発言しやすい雰囲気を作る(空気を作る)などの“根回し”の方法はいくらでもあります。

 ――「とりあえず言ってみる」ということが大事なのですね。

 また、伝え方も大切です。伝え方で損をしている人がいるように思います。私は伝える内容だけでなく、伝え方にも細心の注意を払っています。

 打ち合わせのとき、現場の雰囲気を予想して何を伝えるのか事前に考えて行きます。イギリスにいた頃は、母国語でない英語で質問されても、とっさには言葉が出てこないので、慌てることがありました。そのため事前にあらゆる可能性を想定して準備をして、ミーティングに臨んでいました。これは日本の母国語で開催されるミーティングでも非常に有効です。

知識を知恵として使えているか考えなければならない

 ――女子美術大学で非常勤講師を務められていますが、学生や若手社会人と接していて感じることはありますか?

 何かを課題をやらせるにしても、目的や意味を伝えることが大事だと感じています。自分が学生や新入社員の頃は、教授や上司から「つべこべ言わずにやれ」と言われて育ちましたが、今は通じなくなっています。若い人は、取り組む目的を伝えて納得すると一生懸命にやりますね。

 また、学生や若手社会人だけに限らず現代に生きる人々は、インターネットなどを通じて非常に基本的な情報を持っていますが、それを応用できるか、つまり知識を知恵として使えているか考えなければなりません。

 例えば、大学で「地域を活性化させる」という課題を与えたとき、学生たちは社会問題として「少子高齢化」「独居老人」「待機児童」といった情報を持っています。でも、それぞれを単独で解決する方法しか思いつかないんです。そのような社会問題に対して“横ぐし”を通すような解決方法を考えなければなりません。

 そんな中、ある学生たちのアイデアに秀逸なものがありました。地域ごとに高齢者が児童を見守るというのは現在ありますが、逆に児童が高齢者を訪ねたら印鑑を押してもらうスタンプラリーのようなイベントはどうだろうか、というアイデアです。幼い児童を見守るのは地域の役目ですが、逆に独居老人や痴ほう症対策として高齢者たちも見守られている。戦後の高度経済成長期の日本を支えた元企業戦士たちであるおじいさんたちは、ハンコを押す喜びがあるはずです。

 子供たちは印鑑の名前から漢字を学ぶ機会になるかもしれません。ちょっとシニカルではありますが、様々な社会問題を解決するアート作品に見えます。スタンプラリーのスタンプを印鑑と見立てることで、ブレークスルーを起こしました。そのようなヒントを与えると、ハッと気づいたような顔をします。

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